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川崎市がヘイトスピーチ「事前規制」報道、神原弁護士「検閲ではないが、未解決の問題も」
2017年12月02日 09時31分

川崎市はこのほど、市の公園など公共施設で、不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)がおこなわれるおそれがあり、ほかの利用者に著しく迷惑を及ぼす危険があるときは、施設の利用を認めないなど、例外的に利用制限できるとする内容を盛り込んだガイドラインを発表した。

ヘイトスピーチ問題に取り組んできた神原元弁護士は、今回のガイドラインについて「ヘイトスピーチ規制という点で画期的だ」と評価しながらも、「新しい取り組みであるだけに、法的に未解決な問題をはらんでいる」と指摘する。

川崎市はこのほど、市の公園など公共施設で、不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)がおこなわれるおそれがあり、ほかの利用者に著しく迷惑を及ぼす危険があるときは、施設の利用を認めないなど、例外的に利用制限できるとする内容を盛り込んだガイドラインを発表した。

ヘイトスピーチ問題に取り組んできた神原元弁護士は、今回のガイドラインについて「ヘイトスピーチ規制という点で画期的だ」と評価しながらも、「新しい取り組みであるだけに、法的に未解決な問題をはらんでいる」と指摘する。

●大手メディアは「事前規制」と報じた

このガイドラインは、市の公園など公共施設の利用申請について、(1)不当な差別的言動がおこなわれるおそれが客観的な事実に照らして具体的に認められる場合(言動要件)は、警告、条件付き許可、不許可、許可の取り消し――といった対応ができるとしている。

また、不許可と許可の取り消しについては、(1)の言動要件にくわえて、(2)ほかの利用者に著しく迷惑を及ぼす危険のあることが客観的な事実に照らして明白な場合に限る(迷惑要件)――としている。このガイドラインは、来年3月末までに施行される予定だ。

昨年、ヘイトスピーチ解消法が成立して以降、川崎市はこれまでも、市の公園におけるデモ行為の申請を不許可とするなどの対応をとっていた。このガイドラインは、その対象や手続きを明確にしたといえるが、一方で、NHKなど大手メディアは「事前規制」と報じている。

●神原弁護士「ヘイトスピーチの事前規制ではない」

もし、「事前規制」にあたるならば、法的な問題はないのだろうか。神原弁護士は次のように解説する。

「川崎市がヘイトスピーチのおそれがある場合に公的施設の利用許可を制限できるガイドラインを作成したことは、長年ヘイトスピーチとたたかってきた私としては、非常に喜ばしいことだと考えています。

他方で、市民の公共施設利用について、自治体が市民の過去の言動を根拠に制限できるということは、憲法や地方自治法との関係で一定の問題をはらんでいます。

私はかつて反原発デモ主催者側の代理人として、都の管理する公園を貸さない東京都を訴えたこともあり、川崎市のガイドラインにはそのような観点からも関心を持っています」

それでは「事前規制」にあたるのだろうか。

「報道とは異なり、正確にいうと、川崎市のガイドラインは、ヘイトスピーチを『事前規制』したものでないことに注意が必要です。

憲法は『検閲』を禁止しています(憲法21条2項)。川崎市のガイドラインが文字通りヘイトスピーチを『事前規制』したものだとすれば、憲法に違反する可能性が出てきます。

この点、判例は、憲法にいう『検閲』とは、行政機関が表現内容を事前に審査し、不適当と認めるものの発表を禁止することであると理解しています(最高裁昭和59年12月12日)。

川崎市のガイドラインは、施設の利用を許可しないというだけで、『表現そのもの』を禁止しているわけではありませんから、『検閲』には該当せず、憲法には違反しません」

●「法的に未解決な問題」とは?

それでは、憲法や地方自治法との関係ではらんでいる問題とはなんだろうか。

「施設の利用制限との関係でむしろ問題になるのは、大阪の泉佐野市が公の施設である市民会館の使用を不許可にした事案に関する判例です(最高裁平成7年3月7日判決)。この事件で、最高裁は、市が施設利用を不許可にしてよい場合を次のように判断しています。

『会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、右会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である』

川崎市のガイドラインは、この判例に抵触しないよう、(2)ほかの利用者に著しく迷惑を及ぼす危険のあることが、客観的な事実に照らして明白な場合に限る――という要件(迷惑要件)を盛り込んでいます。これでも最高裁判決に照らせば、緩やかであるといわざるを得ません。

ただし、(2)迷惑要件を厳格に解釈すれば、ヘイトスピーチを規制するという趣旨そのものが達成できなくなりますから、非常に難しい問題です。

他方で、日本も批准している『人種差別撤廃条約』4条(C)は、『国または地方の公の当局または機関が人種差別を助長しまたは扇動することを認めない』と定めています。

同条によれば、自治体は人種差別を助長する活動に施設を提供すること自体が禁止されているという解釈もできます。ガイドラインの根拠を、ほかの利用者の便益との調整ではなく、端的に人種差別の禁止という点に置くのであれば、(2)迷惑要件は、むしろ不要であるともいえるでしょう。

このように、川崎市のガイドライン作成は、ヘイトスピーチ規制という点で画期的です。そして、新しい取り組みであるだけに、法的に未解決な問題をはらんでいます。今後の運用に注目したいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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