この事例の依頼主
60代 男性
相談前の状況
被相続人が叔母様、相続人が甥姪の8人という相続関係でした。甥の一人が依頼者様でした。依頼者様は、法定相続分は10分の1でしたが、かなりの長期間にわたって、夫婦共々、被相続人に対する献身的な介護をしてこられました。被相続人も、依頼者様夫婦の献身的な介護に感謝され、自分の財産を「あんたにやる。」とおっしゃり、権利証や預金通帳等を依頼者様に預けられました。依頼者様は、被相続人のご意思がある程度反映される形での遺産分割を行いたいと希望され、当職に遺産分割交渉を委任されました。
解決への流れ
被相続人は、依頼者様に対し、自分の財産を「あんたにやる。」とおっしゃっていましたが、正式な遺言書は作成しておられませんでした。このような状況において、被相続人の遺産を依頼者様が全て取得するということを、ほかの7人の相続人全員にご納得いただくことは難しいという判断となりました。そこで、当職から、全相続人に対し、被相続人の財産状況を開示した上で、依頼者様夫婦による被相続人に対する献身的な介護の詳細な状況をご説明して、依頼者様が被相続人の遺産の半分を取得し、残り半分をほかの7人の相続人で分割する内容の遺産分割をご提案いたしました。これについては、すぐに7人の相続人全員からのご納得をいただくことはできませんでしたが、その後に個別に交渉を行い、若干の修正をすることでご納得をいただけることになりました。最終的に、遺産分割協議書の作成を行い、遺産の分割を実行いたしました。依頼者様からしても、法定相続分よりもかなりの増額が達成できた内容で、かつ示談交渉手続で早期の解決をすることができましたので、大変ご満足いただけました。
相続人の一人が被相続人に対して献身的な介護をするなどしたことにより、自分の財産をあげると言われることがあります。このような場合に、正式な遺言書が作成されていれば、そのとおりに遺産を取得することができます。しかし、正式な遺言書が作成されていないことが多いと思われ、このような場合には、当然にその相続人が遺産をすべて取得できるわけではありません。法律上は、相続人から被相続人に対する「寄与分」があった場合は、その相続人の取得分が法定相続分から増額されることとされています。ところが、この「寄与分」は、被相続人のために「頑張って介護をした」という労力の側面ではなく、被相続人の「財産を増やした」又は「減らさずに済ませた」という財産の側面を重視して判断するというシステムになっています。そこで、「頑張ったけれども、寄与分の規定によってはきちんと報われない」ということが出てくるのです。しかし、裁判所の判断は上記のようなシステムであっても、交渉レベルで、ほかの相続人のご理解・ご納得を求めていき、被相続人に対して行った献身的な行為について報いてもらうということは試みるべきだと思います。今回も、そのような試みを行い、粘り強く交渉した結果、依頼者様が満足される結果が出ることになりました。依頼者様からは、「遺言書がないから無理かなと思っていましたが、自分たち夫婦のしてきた頑張りが認めてもらえました。きちんと報いられて、本当によかったです。ありがとうございました。」とのお言葉をいただきました。