この事例の依頼主
40代 女性
相談者A子は、結婚してから15年間、夫B男のモラハラ(精神的暴力・経済的暴力・性的暴力)を受けてきたが、その自覚はなく、体調が悪化して家事や子育てができなくなって心療内科を受診したところ、「症状はうつ症状、原因はご主人ですよ。モラル・ハラスメントです」と言われた。帰宅してすぐにA子はパソコンで「モラル・ハラスメント」を調べてみたところ、A子とB男の夫婦関係はそこに書いてある内容に当てはまることばかりであった。書いてある内容によっては、まるでそっくりで恐怖がよみがえり、最後まで読めないものもあった。反面、A子は「私が悪かったんじゃない。私のせいじゃなかったんだ」とホッとしている自分に気づき、体から力が抜けていった。B男は何でも全てA子のせいにし、子供の成績が悪いこと、子供が野球の試合で活躍できないこと、本棚の本が揃っていないこと、テレビ台に埃があること、アイロンをかけたシャツが整っていないこと、床がべたつくこと、子供たちの靴に泥がついていること、全てがA子の責任にされていた。A子とB男の間には3人の男の子(中学生、小学校高学年、3歳)がいたが、長男と二男もB男のモラハラ(精神的暴力・身体的暴力)の被害を受けていた。A子は、モラハラについて調べた中に「子供への影響が一番深刻で、すぐに離れるべき」とあったのを見て離婚を決意し、女性センター、法テラス、シェルター、子供支援課、生活支援課などを調べ、その後、引越先を見つけて契約をし、生活保護の申請をし、法テラスの法律相談を予約した。
A子は法テラスで弁護士Xに面談し、「1週間後に引っ越します」と伝え、引越予定日に3人の子供を連れて、B男には「実家に行ってくる」と言って家を出た。その数時間後、弁護士XはB男に電話をかけて「A子さんはもう家には戻りません。離婚調停の申立をする予定です。A子さんを探したり接触を図ったりすることはやめて下さい。今後の連絡は私にお願いします」と伝えた。ところがB男はA子の実家に向かい、A子と直接話をしようとした。実家の両親が玄関を開けなかったためA子と子供たちが連れ戻されることはなかったが、A子は直ちに弁護士Xに連絡し、弁護士XはB男に「そういうことをすると法的措置をとることになりますので止めて下さい」と警告した。翌日、弁護士XはA子の代理人として婚姻費用(生活費)分担請求調停の申立をした。別居の翌月、A子が申請していた生活保護が開始され、その翌月、第1回調停期日、さらに翌月、第2回調停期日が実施された後、B男は夫婦同居を求める調停及び子供たちとの面会交流を求める調停の申立をした。第3回調停期日において婚姻費用(生活費)について調停が成立し、B男がA子に毎月相当額の婚姻費用(生活費)を支払うことになった。その数日後、弁護士XはA子の代理人として離婚調停の申立をし、第4回調停期日以降は、夫婦同居、面会交流、離婚について調停手続が進められた。第5回調停期日の後に、家庭裁判所調査官がA子の自宅を訪問して子供たちと個別に話をして(A子と弁護士Xは別室で待機)、その結果を記した調査報告書を作成した。その調査報告書には、長男と二男がB男に対して恐怖心・嫌悪感を抱いており、B男との同居や面会交流を拒否する意向を持っていることが記載されていた。裁判所は、調査官報告書を踏まえて、B男と子供たちを直接会わせることは子供たちに悪影響を与えると判断し、第6回調停期日において調停委員から両当事者にそのように伝えられ、写真や手紙の送付などの方法で交流すること(間接交流)が検討された。第7回調停期日においては、B男は離婚に応じる意思がないとのことだったので、弁護士Xは調停委員に対して離婚調停を打ち切ることを求め、離婚については調停終了となった。面会交流については、A子が写真・手紙の送付も拒否(子供たちが嫌がっていることが理由)したため調停期日は続行され、第8回調停期日において、裁判所が、①A子は年3回程度子供たちの生活状況などを記載した書面をB男に送付する(代理人を介して行うこともできる)、②B男はA子及び子供たちに接触を試みず、A子の実家に近づかないこととする、と決定(調停に代わる審判)し、両当事者はこれを受け入れて終了した。なお、同居を求める調停については、B男の取下げにより終了した。離婚調停の終了後、弁護士XはA子の代理人として離婚訴訟を提起し、2年弱の審理を経て判決が言い渡され、確定した。その内容は、①A子とB男は離婚する、②子供たちの親権者をA子と定める、③B男は子供たちが満20歳に達するまで養育費を支払う、④B男はA子に慰謝料300万円を支払う、⑤B男はA子に財産分与として600万円を支払う、⑤年金分割の按分割合を50%と定める、というものであった。翌年、A子の長男が大学に進学したため、A子は弁護士Xに相談して、弁護士XからB男に学費の支払を求めたが、B男はこれを拒否した。そこで、A子は弁護士Xを代理人に立てて養育費増額請求調停の申立をした。B男は養育費の増額を拒否し、調停が成立しなかったため、裁判所の審判により増額が認められた。
B男は自分が納得しなければ誰の意見も受け付けないというような人でした。調停委員の説得に応じることなどあり得ず、裁判官の説得にも簡単には応じません。このような人を相手にした場合、不本意な譲歩を迫られることがよくあるので、注意する必要があります。